国書刊行会の復刻版を買ったので読んだ。
もともとは少女倶楽部に昭和5年7月号から昭和6年6月号まで連載された少女小説。
佐藤紅緑の小説はいくつか読んだことがあるが、説教くさい作品が多いですね。これもそんな感じ。道徳の副読本でも読んでるようだ。だが、主人公照子の少し天然気味の性格が楽しい。
最初のほう、はげたおっさんを見たときの台詞とか
「見て御覧なさい、あの人の頭、つるつるよ。薬鑵(やかん)のようよ。ああ光ってる光ってる」
(30ページ)
無邪気すぎる。
ちなみに、私の脳内では照子は「けいおん」の唯に変換されてます。
登場人物小関照子(てるこ):主人公。小学4年生。家で勉強はしないが成績はずば抜けている。素直。
小関四郎:照子の本当の父親。アメリカで油田を掘り当て金持ちになるが・・・。
お園:照子の本当の母親。照子を生んだ後、すぐ死亡。
井原信子(のぶこ):照子の双子の姉(ということになっている)。努力家で優等生。
井原百助(ももすけ):信子の父。
お浜:信子の母。
大橋国子:照子の級友。
亀岡千代子:照子の級友。
寺田初子:照子の級友。泣き虫。
松本三蔵:いじめっ子。資産家の息子。
元木岩吉:いじめられっ子。小作人の子。
お鶴:小関家の女中。18才。
康子(やすこ):照子の新しい母親。几帳面。35才。
野村珠子(たまこ):東京での照子の級友。富豪の娘。
竹下きん子:東京郊外に引っ越したときのお隣の友達。
仲のよい双子の姉妹である照子と信子。だらしない妹の面倒を喜んでみる信子。お姉ちゃん大好きとなつく妹の照子。この二人の仲良しっぷりは読んでて嬉しくなる。しかし、照子は実はよそのうちの娘だった!
照子が生まれてすぐ、生みの母は亡くなり、父親は一旗上げようとアメリカで働いており音信普通。そこで、たまたま照子の母と仲良くなった井原夫妻が引き取り、実の娘として育てることになったのだ。
時は流れ、照子の実の父が金持ちになって帰ってきたことにより、照子は井原夫妻と今まで姉と思っていた信子と別れることになる。
さらに父親が再婚して新しい母・康子がやってくる。
新しい母と照子との関係がこの小説の一番大事な部分。
康子は照子を実の娘と思って接し、しだいに照子もなついてくるが、康子はあまりにも几帳面な性格であった。とにかくしつけに厳しい。それは、照子を立派な娘に育てるためという思いからだが、照子にはその思いは伝わらない。二人の距離は遠くなる。
そのころ、父親が事業に失敗し、再び再起を図るためアメリカに行ってしまう。財産を失った照子たちは東京郊外の粗末な家に引っ越す。そこでの貧乏な生活が、照子と康子の距離を縮めて、二人は本当の親子のようになるのであった。お互いを思いあう二人の気持ちには、ちょっと感動させられた。
とにかく、ストーリー全体に贅沢は敵だ!金は人を堕落させる!というような思想が貫かれている。人の幸福とは金ではなく、心であるという作者の主張が強く感じられる。
康子の教育方針にそれがよく現れてる。たとえお金に余裕があっても、贅沢はしない。映画には、いい映画と悪い映画があるが、悪い映画を見てはいけない。(いい映画とは、要するに文化映画みたいなやつだと思う。)
以下は、照子が西洋人の写真の絵葉書を飾ってるのを康子が見つけたときの会話
「これはアメリカの映画女優でしょう?」
「ええ」
「だからいけません」
「映画女優はいけないの?」
「そうです、大抵品行の悪い女です、日本でも外国でも同じことです、そんな人の写真を卓子(テーブル)に載せると卓子は汚れるじゃありませんか」
「そう?本当?」
「本当です」
「じゃ私貰うんじゃなかったわ」
照子は絵葉書を屑籠(くずかご)に投(ほお)り込んだ。
(150ページ)
まあ、悪気はないんだろうけど、今の感覚とはすごいずれてるな。
後、とにかく照子をはじめ、信子やその母親たちのいい人振りが印象的だった。とくに照子は天然っぽくて楽しい。肯定の返事が「えい」なのも、かわいいね。方言なんだろうけど。