「この子は、人並みじゃないものですから、あんな乱暴して困りますの。眼も見えませんし、耳も聞こえませんしーそれで・・・・・・」
「まあ!」
(中略)
「六つになりますけれど、そういうふうですから、知恵のつきようがなくて、赤ん坊とおんなじですのよ」
(20ページ)
昭和30年ポプラ社発行の少女小説。元々は雑誌「少女の友」の昭和14年7月号から昭和16年4月号に連載された作品。続編が昭和16年9月号から昭和17年10月号まで連載されましたが結局未完の作品です。(wikipedia調べ)
以前、川端康成全集で続編まで読んだことはあるが、旧字体のままなので少し読みづらかった。今回読んだポプラ社版は続編は含まれてないが、読みやすいな。せっかく読み直したので内容をまとめておく。
登場人物花子:生まれながら目も見えず耳も聞こえない少女。6才くらい。父親は田舎の駅長。
花子の母:かつて教師をしていた。
百田明子:女学校の4年生。ひょんなことから花子と出会う。
達男:中学校の1年生。明子の弟。花子に初めて文字を教える。
カロ:花子の飼い犬。
咲子(さくこ):列車の中で偶然花子と仲良くなる。10才くらい。
月岡先生:明子の先輩。聾学校の教師をしている。
主人公の花子が、全盲で聾唖の幼児というのがまず驚かされる。さらに父親も病死してしまい、母と二人で東京に出てくる。花子にとって幸いだったのは、明子と達男の姉弟との出会いであろう。山の駅で偶然であった二人は、なにかと花子をかまってやる。特に達男はぶっきらぼうで乱暴な正確だが、花子に文字を初めて教えるなど、花子に革新的な教育を施す。
東京で花子の母は達男といっしょに、盲学校と聾学校を見学するのだが、ここの描写が極めて細かい。おそらく作者川端康成が取材したことをほぼすべて書いてるんじゃなかろうか。これは、当時の聾盲教育の記録としても貴重かもしれない。
このシーンで、達男が日本の遅れた聾盲教育に憤慨するシーンがある。
アメリカなどには聾盲者のための学校があるのに日本にはないと聞いて
「日本にもできるといいなあ。日本は文明国じゃないのかなあ?」(201ページ)などと批判する。
その後、明子の先輩である月岡先生が登場。月岡先生の通う聾学校を花子の母が見学するシーンがあるが、ここも取材したのだろう、かなり描写が細かい。
最後は、みんなで伊豆に旅行するシーンで終わる。
障害者が主人公であるため、当然その障害を努力で克服するシーンを期待するが、あまりそうゆうのは見られない。達男がきっかけを作ることはあるのだが。一応、月岡先生が個人的に教育してくれる流れになるが、実際に本格的な教育が始まる前に、話は終わってしまった。確か、続編でもその辺は書かれなかったと思う。
連載されたのが少女雑誌らしく、少女小説らしい描写も多い。咲子が女学生の明子にあこがれたり、明子と月岡先生が女学生時代、エス的な関係だったりする設定など。こうゆう部分は読んでいてなごむ。