FC2ブログ
2009-12-01(Tue)

白川二郎「愛の調べ」を読んで

「死んだお父さんが、とてもオリオン星が好きだったのだそうです、それで、音楽とオリオン星の両方の意味をかけて、織音(おりおん)-織音(おりね)とつけたんだそうでん」(そうでんは多分誤植)

昭和24年あおぞら出版社発行の少女小説。
これは、かなりよかった。作者の音楽に対する情熱がひしひしと感じられる。作者の音楽哲学が、よく現れてる内容ですね。最近の作品でいえば「のだめカンタービレ」のようなものか?
まずは、例によって登場人物の紹介から。

松下道子:一人っ子でちょっとわがままな娘。ピアノを習っている。ある事件から、クラス全員と絶交する。
国や:道子の家の女中。
なぞのおじいさん(和気喬一郎):見た目は乞食みたいなので「おこもさん」と呼ばれる。かつては鬼才と呼ばれるほどの天才的指揮者。
笑子(えみこ):道子の同級生。
大屋智子:道子の下級生。ひょんなことから道子と仲良くなる。
光村おりね:智子の家の女中だが、ピアノの天才。名前を漢字で書くと「織音」だが、ネタばれ防止のため最初はひらがな表記で書かれる。
田岡浩吉:曙交響楽団の指揮者。昔、和気のライバルだった。田岡の弟子が、和気をワナに陥れる。

ストーリー上の主人公は道子ですが、実質的な主人公はなぞのおじいさんですね。とにかく、このおじいさんがかっこいい。ムーミンにおけるスナフキンのような存在で、なにか悟りきった仙人のような言動が多く印象に残る。
かつては、天才的な指揮者だったのだがある陰謀で窃盗の罪を着せられ、世間から見捨てられてしまう。これがきっかけとなって、煩悩から解放されたようなおじいさんになってしまったのだ。

話は、このおじいさんと道子との出会いから始まる。道子は、このおじいさんの目の美しさに気づき、家の物置に住まわせることになる。
おじいさんは、ある女の子を捜しているのだが、その手がかりは、昔一度見た写真と、名前が星のようだったという漠然としたもの。その女の子の父親が亡くなる直前に、おじいさんにたくした楽譜をその娘に渡さなければならないのだ。

印象に残ったのは、なぞのおじいさんが探していた娘が織音だと判明したシーン。亡くなった父の愛情を知った織音。その織音と田岡先生の会話シーンをちょっと引用すると・・・

織音(おりね)は泣きながら田岡先生を見上げ、喘ぐように言いました。
「先生!あたしは幸福です!」
「そうだ、君は日本一の幸福な子だ!」
「そして先生、父も - 父も幸福な人です」
「そうだ、君のお父さんも日本一の幸福な人だ。(後略)」



なんともストレートな感情表現がとてもすがすがしい。

その後、過去を反省した田岡先生は道子や織音たちといっしょに和気氏を東京に連れ戻すため和気氏のいるお寺に向かう。
そこで初めて和気氏は、今まで探していた娘が見つかったことを知らされ、その娘が立派なピアニストになったのに感心した後・・・

「それは凄いな。死んだ父親も満足しているだろう。で、今どこにいるのだね」
道子は思わず体を乗り出しました。
「おじいさんの前に」
「わしの?」
そして、織音を見るや、
「おお!」
と叫びました。



このシーン、なんとなく自分の好きな「家なき娘(ペリーヌ物語)」のクライマックスに似たような感じでおもしろい。

なかなか東京に戻るのを承知しなかった和気氏だが、織音の父が娘のために作曲した曲「美しき猟人(りょうじん)」を指揮するために一度だけタクトを振る決心をする。

クライマックスはその演奏シーンだがそれもすばらしい。音楽を文章で表現するのはとても難しいだろうが、作者はみごとに読者の要求に答えている。全部引用したいくらいだが、長くなるのでちょっとだけ

はじめ、人々は当惑し考えこみました。(中略)
そうです。そこには、聞き馴れた音楽的調和はありませんでした、(中略)
やがて -。おじいさんのタクトは、鋭く一点を指しました。と、突如として、無調法のハーモニーの奥から、この世のものとは思えない微かな音が妙なるメロディーとなつて流れ出しました。
あ!織音さんだ!
道子の体はふるえました。
ピアノの音は、それを打ち砕こうとする荒々しい弦楽器の響きの中に、細く、しかしあくまでも力強く流れます。すると打楽器は、弦楽器に力を添え、ピアノの音を一挙に粉砕しようとでもするようにとどろきます。しかし、ピアノの音は消されませんでした。徐々に強く、高らかに、まるで、襲いかかる一切の悲しみを押しのけようとでもするように響きました。
(後略)



この後もこの曲のモチーフとなったギリシャ神話(オリオンとアルテミス)にたとえながら描写は続きます。

物語の最後は、再び当ての無い旅に旅立つ和気氏との別れで終わります。

なかなかうまいストーリー構成で技術的にも優れていると思った。最初、おじいさんの探してる女の子は道子ではないかと読者にミスリードさせるような描写があったり、織音を最初は「おりね」とひらがな表記にして、すぐにネタばれしないように工夫したり、なかなかのテクニシャンです。
これだけの小説を書いたのだから、それなりに有名な人だろうと思って、作者の白川二郎を検索したが、「もしかして白川次郎(フリーアナウンサー)」とか出てきて、なかなか情報が見つからない。これだけの技術がありながら無名のまま終わったのだろうか?それとも誰かの変名?とにかくこうゆう名作が埋もれてしまっているのはとても残念です。

ちなみに個人的に一番好きだったシーンは、和気氏の国やに対する態度。
「国やちゃん、お前さんの目は、いつ見ても可愛いね」
などと言って、つねに国やのことを気にかけている。
国やは女中でストーリー展開上、いてもいなくてもいいようなキャラなのだが、そうゆうキャラにもちゃんとフォローしてやるやさしさが印象的でした。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

コメント

プロフィール

ナカノ☆カナ

  • Author:ナカノ☆カナ
  • 関東在住のただのアニオタ(男)
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
カテゴリー
リンク