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佐藤紅緑「朝の雲雀」を読んで 

古本屋で買ったので読んでみた。本の発行日は昭和29年だが、もとは「少女倶楽部」で昭和4年4月号から昭和5年5月号まで連載された作品です(Wikipedia調べ)。目次を見ると全部で14章だから、1章が一回分だろう。
佐藤紅緑って結構有名らしいが、実際に作品を読むのはこれが初めてです。ちょっと説教くさいところがあるが、じゅうぶん面白かった。
主な登場人物を整理すると・・・


村上梅子:染物屋の娘。勉強もできて心優しい少女。体が大きい。
岩下町子:踏み切り番の一人娘。勉強嫌いで礼儀知らずでお転婆だが、正直で友達思い。
二宮荵(しのぶ):転校生
辻本あやめ:お嬢様。父・伝八は町会議員でお金持ち。
山添新子:あやめの取り巻きの一人。
原登美子:あやめの取り巻きの一人。
篠田竹子:あやめの取り巻きの一人。
野村秀一:心正しき少年
虎一:梅子の弟
幸吉:梅子の父親。染物屋だがあまり仕事をしない。超ポジティブ人間。娘の梅子を自慢する。
お政:梅子の母親。息子の虎一を自慢する。
沢井東助:五百子の夫。金持ち。町子をひきとる。
沢井五百子(いおこ):東助の妻、町子の伯母。
牧野先生:小学校時代の梅子たちの担任。町の人からも尊敬されている。

ちなみに私の脳内では梅子は小梅(大正野球娘)、町子は釘宮、荵はりま(しゅごキャラ)に変換されてます。

ストーリーは、小学生の梅子、町子、荵(しのぶ)の3人を中心に進むのだが、学校を卒業してからは荵(しのぶ)の出番はほとんどなくなり、梅子と町子の友情物語になってる。
卒業後、町子は父親が亡くなったために東京の伯母夫婦の娘になる。一方、梅子一家は幸吉がうっかりある保証人になったため家を差し押さえられ、上京してひっそり暮らし始める。貧乏なので梅子はワンタン売りの屋台を始める。道具は一式親切なおじさんから借りたとはいえ、女の子一人で屋台を引くとはすごいな。途中から弟も手伝うようになるのだが。梅子がチャルメラを吹きながらワンタン売ってる様子を想像するとほほえましいね。
その後、梅子は町子の無作法さを矯正する目的で、沢井家に住み込み女学校にも入学させてもらう。しかし、町子の無作法さは一向直らず、逆に梅子のほうがお嬢様らしいと評判になり沢井家の主人に気に入られる。最終的には二人とも、自分が家を出て行けばうまく収まると考えて、家出するのであった。
最後は町子が死にかけたりしますが、ハッピーエンドで終わります。

全体的に偶然の出会いが多い気もしますが、どうも全部神様の思し召しという感じで説明されてる気がする。クライマックスでの2組の偶然の出会いがそれぞれ、神社とお寺というのはやはり神仏のご加護を暗示してるのかな~?
キャラ的に面白いのは、梅子の父の幸吉です。気が向いたときしか仕事をしないダメ人間だが、なぜかやたら前向きで落ち込むことがない。憎めないキャラクターです。梅子を大変かわいがり、虎一をひいきする妻とはいつも、ケンカしてる。変な一家である。
また、主人公3人の中で一番キャラが立ってるのは、町子ですね。基本的に自然児で東京の邸での暮らしになじめない様は、ハイジのようだ。また、邸で東助の大事な花瓶を割ってしまったとき、梅子は自分が割ったことにしようという(梅子のほうが東助に気に入られているから)。しかし、町子はたとえ殺されても正直に打ち明けようとする。この辺のやり取りは、二人の深い友情を感じてちょっと感動する。

それにしても、この小説で一番印象的なのは、少女らが上半身裸になる場面。しかも、2回も。
一回目は、小学校時代、列車を急停止させるため、町子が自分の赤いシャツを脱いで停止信号の赤い旗の代わりとするところ。小説では「腰からうえはまるはだかである。」とはっきり書かれているが、ちょうどこの場面を描いた挿絵を見ると何か下着のようなものを着てるようだ。考えてみれば、女の子がシャツの下に何も着てないってことはないだろうから、挿絵のほうが正しいかも。しかし、この挿絵あまり小学生には見えないな。全体的にこの本の挿絵は、少女を大人っぽく描きすぎてる気がする。

2回目はクライマックス。小学校卒業してから、ほとんど出番のなかった荵(しのぶ)が大活躍です。雷雨の日、お寺の墓地で倒れてる町子を発見した荵(しのぶ)。体が冷たくなって死にかけてる彼女を暖めるため脱ぎます。ちょっと引用すると・・・

彼女は上着をぬいで半身くるりとはだかになった。そうしてなかば死んでいる町子の上着をぬがしてはだかにし、わが上着をせなかにしかせた。それから彼女は、しつかりとわが肌で町子の肌をあたためた。肌は氷のようである。荵(しのぶ)はぞっと身ぶるいした。だが、彼女のからだには、友情の熱火がもえている。
「生きてちようだいね、生きて・・・・・・」
荵(しのぶ)は、わがからだのありたけの熱を町子にうつしてやろうと思った。かた手にはしつかりと町子の首をだいた。なぞのような微温が町子の胸の底から萌えはじめた。
「おお、町子さん!」
荵(しのぶ)はいつしんふらんにからだをすりつけた。そうして町子の目をじっと見つめながら、そのくちびるにわがくちびるをよせてしずかに息を送りこんだ。しずかなしずかな胸の鼓動がひびいた。
「しめたっ」



いきなり「萌えはじめた」なんていわれると、変な妄想をしてしまうよ。友の命を救う感動的な場面なんですけどね。ふだんおしとやかな荵が「しめたっ」とか言うのもおもしろい。
[2009/10/26 19:01] 読書 | TB(0) | CM(0)

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